「YGらしさ」の考察 パート① ~ヤンサのルーツと「実力派」イメージの形成~
YGが野心的に売り出した12人のBOY達がデビューして早1年!
一方で言われ続けた「YGらしくない」という指摘。
じゃあ、なにが「YGらしさ」なのか?
それを、パート①「ヤンサのルーツと実力派イメージの形成」、パート②「BIGBANGの登場」、パート③「WINNER & iKON ~ポストBIGBANGの尽きぬ悩み~」、パート④「ヤンサのいないYGとTREASURE」(いずれも仮題)の4つに分けて考察してみたいと思います!
今回はパート①です!
目次
1.「歌手」ヤンサが後世に与えた影響
YGを語る上で外せない創始者の「ヤンサ」こと、ヤン・ヒョンソク氏。
色々…という言葉で済ますには不適切な事件が発生したことで、YGの代表を辞任しましたが、それでもなお、「YGカラー」と作り上げた人物として、現在に至るまで強い影響を与え続けている存在です。
そんなヤンサはどんな人間なのか?
実は彼も歌手出身の人物、しかも、韓国の大衆音楽に一線を引いた存在である伝説のグループ「ソ・テジワアイドゥル(서태지와 아이들)」(ソ・テジと子どもたち)のメンバーでした。
まずこのデビュー曲『僕は知っている(난 알아요)』、そして「ソ・テジワアイドゥル(서태지와 아이들)」 の登場がセンセーショナルだった点として、
「本格的なラップパートの導入」、「ヒップホップをベースとするダンスの存在」、「爆発的な若者世代の熱狂(⇒音楽業界全体が10代男女が牽引するキッカケになる)」
が挙げられます。
もちろん、「ソ・テジと子どもたち」なので、楽曲プロデュースの点ではソ・テジ氏が与えた影響が圧倒的に大きく、実際彼は現在も根強いファンと大衆的人気を兼ね備えた「文化大統領」として君臨しています。
それに対してヤンサは「ソ・テジワアイドゥル」の「パフォーマンス」的な側面のキーパーソンでした。ヤンサは「ヒップホップをベースにしたブレイクダンスやポッピンといったダンススキル」に長けた人間であり、このようなスタイルのダンサーは当時の韓国にはほとんど存在していませんでした。
また、当時は「ダンス歌手」といってもソロ歌手が歌謡界の中心であり*2、ソ・テジワアイドゥルのような「グループ」の「ダンス歌手」はほとんど存在していませんでした*3
その結果、ソ・テジさんの作り出した楽曲にヤンサの力強いダンススキル、それを「ソロ」ではなく「グループ」でパフォーマンスするという特徴が噛み合わさった「ソテジワアイドゥル」はデビューと同時に若者世代に爆発的な人気を博します。
これにより、バラードやトロット(日本でいう演歌や歌謡曲にあたるジャンル)が主流だった韓国の大衆音楽業界にソ・テジワアイドゥルは多大な影響を与えました。
このように「グループ」の「ダンス歌手」が
歌謡界の中心へと躍り出たこと
は韓国の大衆音楽業界に強いインパクトを残し、多くの「グループ」「ダンス歌手」が登場するキッカケになったのです*4。
2.ヤンサ、プロデューサーになる
その後、ヤンサはプロデューサーの道へと進みます。そして、1997年にヒップホップデュオ「JINUSEAN」(지누션)をプロデュース&デビューさせ、1998年には(当時)7人組の「ヒップホップ」グループ「1TYME」(원타임)をプロデュース&デビューさせます。この2つのグループはどちらも成功し、ヤンサはプロデューサーの成功街道の第一歩を踏み出すことになります。
また、「1TYME」のメンバーのひとりだったTEDDYさんは現在もYG所属のプロデューサーとしてバリバリに活躍しており*5、今の「YGサウンド」*6
の礎がここに誕生します。
このように、ヤンサは「ヒップホップ」色強めな事務所のリーダー兼プロデューサーとして活躍を始めます。そして、「YGサウンド」(=TEDDYさん)の要を手に入れ、「YGといえばヒップホップ、ヒップホップといえばYG」のようなイメージを作り上げていったのです。
3.「実力派」イメージの形成
「ヒップホップ」と並んで
YG所属歌手には「実力派」イメージがありました。
もちろん歌手やアイドルには全員「実力」があるのでこの言葉は不適切ですが、ここでの「実力派」という言葉の意味を、
「ずば抜けた容姿の個性(イケメン美女ではなく平凡などこにでもいそうな見た目の人)はなくとも、圧倒的な歌唱力やダンス能力でスター性を獲得できるだけの能力を持った人のこと」
だと僕は定義します。
優れた容姿はそれだけで武器です。それに加えて「歌が上手い」、「ダンスが上手い」、「ラップが上手い」となれば注目されるに決まっています。
しかし、YGは「容姿の華々しさ」にこだわらず、「歌の上手い人」、「ダンスの上手い人」、「ラップが上手い人」と、「パフォーマー」としての核になる部分の能力を非常に重視しており、特にBLACKPINKのデビュー前はその傾向が顕著でした*7。
例えば「BIGMAMA」(빅마마)という4人組のボーカルグループ。最近本国で9年ぶりのカムバックを果たし、大きな話題になりました*8。
このBIGMAMAの4人は全員ボーカルレッスンを体系的に学んだ実力者たちで歌唱力は折り紙付き。BIGMAMAの空白期には4人全員が大学の「教授」としてボーカルレッスンの指導に当たるほどの素晴らしい実力の持ち主です。
そんなBIGMAMAをめぐるお話で現在も語り草になっているのが、彼女たちのデビュー曲『Break Away』のMV。とにかく歌唱力は素晴らしかったのですが、お世辞にも「華やか」とは言えず「平凡」な見た目だった4人。そんな彼女たちにスポットライトを当て、一躍、スターダムにしたのがこのMVでした。このMV、美女4人がクラブで歌を歌っているという筋書きだったのですが、最後の最後で明らかになるのは「美女4人」は舞台の下にいる「代役」(彼女たちが本物のBIGMAMA)の歌声に合わせて口パクしてるだけ!というオチだったのです笑
この「どんでん返し」の衝撃と、彼女たちの素晴らしい実力に多くの人が圧倒された結果、『Break Away』は大ヒットし、その後も数多くのヒット曲を世に送り出すなど、BIGMAMAは広く人気を集めました。現在でもBIGMAMAは「実力派」「ボーカルグループ」の代名詞的存在です。
その他にも、GUMMY(거미)さんやフィソン(휘성)さんといった確かな実力を持ったアーティストを次々と発掘するなど、YGという事務所は「実力派」のイメージを固めていきます。
また、時代が下ってYG自体がBIGBANGや2NE1といったアイドル企画会社へとシフトしていく中でも、イ・ハイさんやAKMU(楽童ミュージシャン)といった「実力派」シンガー(シンガーソングライター)的な立ち位置のアーティストとも契約するなど、(カムバックは非常に遅かったですが…)YGは他事務所と比較して「実力派」アーティストを揃えている、というブランドイメージ作りに腐心していたように思えます。とにかく、以上のような理由によりYGの「実力派」イメージは長年にわたって形成され続け、それが「YGらしさ」として語られる一つの要因になっていると僕は考察します。
4.まとめ ~パート②に続く~
今回は「歌手」ヤンサ、そして「プロデューサー」ヤンサのルーツを辿ることにより、「YGらしさ」の構成要素である「ヒップホップ」、「TEDDYさん」、「実力派イメージ」について考察を深めてみました。
次回(パート②)のテーマは「BIGBANGの登場」。K-POP界唯一無二の存在、「BIGBANG」によって形成された「YGらしさ」を紐解いていきたいと思います。
駄文・長文失礼いたしました。ご指摘等ありましたらコメント欄に寄せて頂けたら幸いです。
(END/4568 Words)
*1:一時期ソロ歌手としてヤンサが活動していた時の映像 (1998年)
*2:
上の動画のキム・ワンソンさんがその代表格で、この『ピエロは私たちを見て笑う(삐에로는 우릴보고 웃지)』は彼女の代表曲です。
一方で当時はダンス歌手自体が珍しい存在であり、多くの歌手はバラードやフォーク、トロットを基盤にした楽曲で活動していました。
*3:
ソテジワアイドゥル以前にデビューした数少ないグループのダンス歌手に(ある一定の年齢以上の人には通じる)『オジャパメン』の原曲『ゆうべの話』(어젯밤 이야기)を歌った「消防車」(ソバンチャ)がいます。この曲はIUさんがカバーしたことでも有名ですが、後世への影響は圧倒的にソテジワアイドゥルの方が強いです。
*4:
実際にソ・テジワアイドゥルのデビュー翌年(1993年)には、「ZAM」(잼)や
「DEUX」(듀스)といったグループやデュオのダンス歌手がデビューします。特に「DEUX」はヤンサ以上に「ヒップホップ」色を強めた楽曲とダンスで後のダンサーやアイドルたちに大きな影響を与え、この上の動画の楽曲『僕に振り向いてくれ』(나를 돌아봐)はダンスを志すものなら一度は練習したことのある楽曲として有名です。
※参考
ドラマ『応答せよ1997』の一コマ。INFINITEのメンバーだったホヤちゃん演じるカン・ジュニがダンスクラブで踊りまくるシーンで流れる『僕に振り向いてくれ』(나를 돌아봐)
ちなみにホヤちゃんはB-Boy出身の骨の髄までヒップホップ大好きダンスマシンでした笑
*5:現在はBLACKPINKのメインプロデューサーとして活躍しており、彼女たちの楽曲のほぼ全てに作詞・作曲・編曲で関わっています
*6:ひとくちに「YGサウンド」といっても様々な種類がありますが、ここではTEDDY氏の楽曲アレンジスタイル(EDMベースの飛び跳ねる音が特徴的な楽曲)を取り上げたいと思います。特に顕著かつ有名な楽曲は以下の2つ。どちらも作詞・作曲・編曲すべてにTEDDY氏が関わっています。
2NE1 『I AM THE BEST』(내가 제일 잘 나가)
BLACKPINK『BOOMBAYAH』(붐바야)
※あくまでも僕の個人的な見解であり、またTEDDY氏含めてYGのプロデューサー陣が作る楽曲に全てこれらの楽曲の要素が含まれているという絶対的な判断ではありません
*7:
他ならぬヤンサ自身がBLACKPINKのルックスについて他グループとの違いを言及しており、BLACKPINKはパフォーマンス能力と同時に高いレベルのビジュアルを追求した様子が伺えます。
*8:このdingoの「Killing Voice」というシリーズに出演した時には、9年というブランクにもかかわらず710万回再生(2021年8月18日現在)という驚異的な再生回数を記録しています!